映画トロピカルージュプリキュア感想-雪解けて芽吹く春-
※当記事には映画トロピカルージュプリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪のネタバレが含まれています。
トロプリ映画感想、後編です。
前回までの記事はこちら。
いよいよクライマックスです。
凍りついた世界
くるるんの大活躍により脱出したハトプリ一行、脱出した先で見つけたのは凍りついたスノードロップ。そもそも今のシャンティアは隕石パワーによりシャロンの心から構築された仮想世界です。吹雪の状態など、この世界の状態はシャロンの心そのものといえます。
凍りついた心の花を咲かせる。ハトプリ論理による解決にはシャロンの心を溶かす必要があるわけですが、ここで『それをやろう』とスッと言えるフラミンゴが頼もしかったですね。シャロンと心を通わせていたラメールならそれができると信じるパパイア、サマーもついてるを強調するコーラルとふたりへの信頼が半端ないです。
このあたりは逆にトロプリ勢の若さが出ているのかなと思います。ハトプリ勢は心を溶かすことの難度を知っているが故に簡単じゃないと思っていることを、トロプリ勢は知らないが故にそれをやろうと言えるわけですね。そしてそれが仲間への信頼故というのがとても良いです。
きっとできるはず。ラメールとサマーのふたりなら。
ふたりなら
再び王宮に向かうサマーとラメール。王宮内には雪の怪物がいましたが、二人に道を開けます。これは主であるシャロンの意志でしょう。ローラとの対話を求めているということです。
そして開かれた玉座の間、そこは凍りついており、最初に訪れたときとは印象がまるで違います。雪の怪物がいる王宮内といい、凍りついた空間の中にひとり立つシャロンといいラストダンジョン感が半端なくてめちゃくちゃ好きな描写です。
さて、シャロンとの会話。
ローラはシャロンのことを大切に想うが故に、間違ったことをしている友人を止めに来たんですよね。なんと麗しき愛なのでしょうか、会ったのはついさっきなのにローラはシャロンのことを本当に想っていることがわかります。間違ったことをしているから止める、本当の友達ってそういうことなんじゃないでしょうか。
一方、シャロンはローラに協力を求めます。
同じく女王を目指すもの、同じく国を失ったもの。同じ境遇で自身の気持ちがわかる彼女なら、自分に協力してくれる。
これはローラにとってはとても効く言葉です。なぜなら先程のバトルではシャロンのことを想うが故に、彼女を庇ったからです。あのときと同様に、シャロンへの想いがシャロンの行動を助ける方向に傾く可能性は十分にある。
竜巻を起こしその中を自身とローラの二人だけにし、力を貸してと頼み込む。友人の頼みにローラも再び迷ったかのように視線を落とします。
でも、ローラは間違えませんでした。
まなつがいたからです。
パシッとローラの手を掴み、自身がそばにいることを伝える。竜巻の中で二人きりになったことで再びシャロンに同情し傾きかけた心を、まなつがたったワンアクションで正常に戻したんです。これはまなつがえりかに語っていた『私がローラのそばにいるよ』にほかなりません。いや回収力エッグい…。
ここでまなつが一切言葉を発さず、腕をつかむだけというのも非常に秀逸な演出です。ローラとシャロンの会話だけが空間に音として存在するというのもとても良いですし。なによりふたりの間に言葉はいらない、絶大な信頼関係です。
ふたりは『ふたりは』
余談ですが、私はまなつとローラはいわゆる『ふたりは』の系譜だと考えていました。唯一無二の関係性の強さが過去の『ふたりは』系譜と比べても遜色ないからです。また、お話的にもトロプリは人間と人魚の物語でありひいてはまなつとローラの物語だと考えており、ふたりは系譜と比較しても物語における中心具合が凄まじいのです。
そしてその考えは今回の映画の1シーンで裏付けられたかのように思います。
雪の怪獣が出て、崩れる宮殿から脱出するシーン。
ここが『ふたりは』を思わせる作画であり演出になっていたからです。
制作側もそういう意図だったのかな思った瞬間でした。
実際どうかは神のみぞ知るってやつです。
シャロンの心
ローラの言葉むなしく、シャロンの心を溶かすことはできませんでした。
彼女の言葉は正しい。
シャロンの心から生まれたこの世界も、おそらくはシャロン自身も全て隕石の力により仮初の世界に過ぎません。この空間でいくら頑張っても、結局は偽物の世界です。現実ではない。本当の意味でシャンティアが蘇ることはありません。
そして誰かの笑顔を奪いながら国を笑顔にしたところで、先王である両親は本当に喜ぶのでしょうか?
耳が痛いほどに正論。
でもきっと、シャロンだってそんなことはわかっているんでしょう。
シャロンが欲しいものは明確です。
失った国を取り戻す。そしてそのために行動している。
それが不可能だと気づいていながらも、彼女の大事な物を取り戻したいと思う気持ちに嘘はつけない。諦めることができない。そんな簡単に割り切ることなんてできやしない。
それほど、シャロンにとってシャンティアや国の皆は大事な存在だったんです。
それを『取り戻せない』と事実を言われたところで、誰が納得できましょうか?
『黙れ』と激情を出すシャロンの声、痛いほど刺さりました。
とても好きなシーン、名演だったと思います。
…なんかシャロンに寄り添うと、ローラめちゃくちゃひどいこと言ってる気がしてきましたね。まあでも、必要なことです。誰かが伝えないといけないこと。それをちゃんと言えるローラは本当の意味でシャロンの友人だったなって思います。
最終決戦
激情を顕にしたシャロンは髪がほどけていて乱れており、風に揺れていてとても好きです。ようやくシャロンの本当の心が表に出てきている気がします。感情により乱れた心がその姿にも表れている感じ。
シャロンと戦うトロプリメンバーですが、別に彼女のことが憎くて戦ってるわけじゃないんですよね。特にローラはシャロンのことを想うがゆえに、本当の意味で笑ってほしいからこそ戦っている。
その心が指輪の光によって伝わります。
相手のことを思って光る指輪、それが光るということは、今シャロンに対してかけている言葉は真にシャロンを想っているが故だということを裏付けているのです。いやもう、回収力エッグい…。
そしてシャロンを鏡に映してからおめかしアップに入るの、めちゃくちゃ好きな演出です。凍りついたあなたの心、というセリフに合わせてシャロンを鏡に映すの最高でした。
さて、雪の怪獣はトロプリ勢の必殺技が全然効かないほどの強さだったわけですが。
ハトプリの力を受けて生まれたスノーハートクルトロピカルスタイルが、ハトプリのあの女神を出して、女神と怪獣の大怪獣格闘バトルを繰り広げて、ハートシャイニングオーケストラにより最後は抱きしめて心を溶かした。
まあなんていうか、全部良いです。感想の意味。
あなたのために
シャロンにとって辛いのは、国を失ったことに対して自分が何もできなかったこと。もし自分にもっと力があれば?とずっと自分を責め続けているんです。
ここにきて国が滅んだ原因が隕石ということに意味が出てきたように思います。
要は『人の力ではどうしようもないもの』で国を滅ぼす必要があったんですね。言い方がひどいな。
国が滅んだことは突然の不幸であり、どうしようもない。
そして滅んだ国もシャロン自身も、もう取り戻せない。
シャロンが本当に欲しいものはもう手に入りません。
どうしようもない現実であり、本当の意味でシャロンを救うことはもうできない。
そんな彼女に何ができるのか?
出された答えは、伝え続けることです。
滅んだ国は取り戻せなくても、シャンティアの歌をずっと伝えていくことはできます。シャンティアっていう国があったよっていう証をずっと残すことはできる。ちょっと詭弁かもしれませんが、歌がある限りシャンティアは誰かの中に存在し続けるわけです。
それが現状、シャロンにできる最大限のことだったんじゃないかなって思います。このあたりの落とし所はうまいですよね。
それにしても『この私が歌うのよ』『絶対になくならない』と強く宣言する我が愛しのローラのなんと頼もしいこと、とても彼女らしい。シャロンもローラの歌声を綺麗と評したり、本当に素敵な二人だったと思います。
雪解けて芽吹く春
さて、その歌のシーンですがまず入りからして秀逸でした。
あなたのために歌うわ
最初、自分が目立つためにこの国に歌いに来たローラが今はシャロンのために歌おうとしている。もうこの変化がローラ最高!!って感じです。成長し続ける女です。
歌自体の破壊力も凄まじく、とても良かったです。
そしてなにより、演出。
歌以外の声を一切排除したのも凄かったですが、映像面での演出が凄い。
最後、シャロンは両親を含むシャンティアの国民の姿を見ます。
それによって、やっとシャロンが救われた。
凍りついた心が溶ける。
それをシャンティアに春が訪れる演出で表すのがめちゃくちゃ良かったです。この国はシャロンの心そのもの、雪が溶け春が訪れることでシャロンの心が溶けたことを表しているんですよね。演出力ヤバ…。
そして、シャロンが表現したときに球体に閉じ込められたものも開放されます。これはシャロンの心が解き放たれたことを意味するのでしょう。
とにかく、凄まじい演出でした。やばすぎる。
考察:シャンティアについて
ところでシャンティアですが、宣伝では雪の王国という言葉が使われていましたが実際は違うと思います。過去回想の映像では自然豊かなシーンがあり、雪に覆われているわけではありません。いわゆる雪国というのは常に雪が降り積もっている国を指すように思います。
そしてシャンティアの歌は『ここはしあわせのくに』という歌詞が出てきます。
なのでシャンティアは実際は『しあわせの国シャンティア』だったのではないかなと想っています。雪の王国というのは、シャロン復活後に彼女の心で生まれたシャンティアがそういう国になったのではないかなと。
真実は神のみぞ知るです。
まなつとローラ
消えてしまったシャロンとシャンティア。それに対してローラが何も思わないはずがありません。でも彼女は泣かない、弱さを見せない。女王のあるべき理想像を持ち、それに向かって突き進むのが彼女です。
心の悲しみを見せることができない彼女の代わりに、まなつが泣いてくれたのかなって思っています。
やっぱりまなロラなんですよね!!!
伝え続ける
最後、商店街で歌うシーン。
最初に『私の歌』をシャンティアに響かせると言っていたローラが今は『私たちの歌』と言っている。この変化、やはり成長著しい女です。
そしてエンディングで歌い世界に広げていくシャンティアの歌は、シャンティアで歌ったときと歌詞が違います。
微笑みで一つになろう。
シャロンが歌ったシャンティアの歌は『国中の皆が笑顔でいられますように』という想いが込められているように思います。また生活している姿が歌詞に盛り込まれており、まさに国歌のような感じです。
微笑みでつなごう。
それに対してエンディングのほうは『この歌を広げていこう』という意志を感じます。歌で人と人を繋いでいく、そして繋がった人がまたこの歌を誰かに伝えていく。また歌詞も生活している姿を感じさせる部分が消され、国としての歌の側面が少なくなっています。要は『誰もが歌いやすくなってる』んですよね。
真実は神のみぞ知る、ではありますが。
細かいところでも色々想像できる部分があるなあと思います。
おわりに
ということで、3記事に渡るというすざまじい文量になってしましましたが大体書きたいことは書けたかなと思います。
まなつとローラ、ローラとシャロン。2つの関係性。
真の意味で欲しいものは与えることはできない、そんな難しい状況を扱ったこととそれに対する回答。そして歌のシーン。素晴らしい作品だったと思います。
実はこの映画を見た直後、即CDショップに行って映画主題歌CDを買いました。
シャンティアの歌を聞くことで、この歌を私の中にも残しておきたい。そんな衝動に駆られたんだと思います。映像の中の彼女が世界中に伝えようとしている歌を、自分も受け取りたくなった。彼女たちの伝えようとしている意志に応えたかった。そんな気持ちでした。
そんな感情、初めてでした。
この映画を見て湧き出た感情を、私は一生覚えてると思います。
P.S
推しアナが声優参加しているんですが、映画面白すぎて触れるタイミングなかった。